[Publisher] Business2Community
この記事はBusiness2CommunityのMichel van Hoveが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願いいたします。
イノベーション・マネジメントとは何でしょうか?
イノベーション・マネジメントとは、顧客にとっての価値や、事業上の競争優位性と成長、従業員やその他すべてのステークホルダーの利益を持続的に実現するために、イノベーションに適した状況を作ろうとするすべての活動です。
イノベーション・マネジメントは、企業経営に組み込まれなければならない
経営管理手法の多くが100年近くも前に開発されたものであることを踏まえると、イノベーション・マネジメントは、比較的新しい分野です。
プロジェクト・マネジメントや総合的品質管理(TQM)などの経営管理手法は、数十年前に導入され、時とともに発展してきました。イノベーションが事業にとって意味のある価値を生み出すには、同様の過程をたどっていく必要があるのです。
イノベーションは、創造性、楽しさ、変化、また期待感などと関連していて、イノベーションを企業文化にする必要性を語る人も多くいます。石油大手のシェルやサイエンス企業のDSM(ライフサイエンス分野まで手掛けるオランダの総合化学メーカー)など、戦略的・体系的にイノベーションに取り組む企業の成功事例もありますが、多くの企業はいまだにイノベーションを一つのプロジェクトと見なしており、結果として、「やった方が良い」という程度の認識になってしまっています。
イノベーションを進め、求める結果を生み出すには、他の経営管理手法と同じように、イノベーション・マネジメントもその一つとして企業経営に組み込む必要があるのです。
ただしその際、顧客に価値を提供するための、これまでにない新しい方法を生み出すのに欠かせない創造性や起業家意識といった資質を失わせないようにしなければなりません。
ゼロから始めるわけではない
企業内でイノベーション・マネジメントの担当者になった人は、まっさらな状態から始めるわけではないと、すぐに気付くでしょう。
どの組織もイノベーションを起こしており、イノベーションに対する熱意は組織のさまざまなところにあるものです。イノベーションを重視している担当者もいるでしょう。そういった人々は、熱意を持って、イノベーションに取り組んだかもしれません。
しかし、その多くが一時的なもので終わっており、経営戦略全体にはめったにつなげられていません。
大企業のうち75%は、イノベーション・プロセスをしっかりと構造化できていません。難しいのは、今ある熱意を失わせないで、いかにイノベーション・マネジメントを始めるかです。今あるものを生かしつつ、結果を生んでいない取り組みは切り捨てていくというような、必要ながらも難しい意思決定を下すには、どうすれば良いのでしょうか。
イノベーションを始動させて軌道に乗せるために、実践的かつ体系的なアプローチをご紹介しましょう。
体系的にイノベーションに取り組む
方向性が定まらないまま行動しないように、イノベーション・マネジメントを実践する前にいくつか重要な点について事前に考えておく必要があります。
その際、イノベーション・マネジメントを体系的に実践するために作られたフレームワークが手助けになるでしょう。フレームワークを活用すれば、システムの構造や各要素同士の関連性、現在と未来の状況を俯瞰(ふかん)した視点で見ることができるのです。
イノベーション・マネジメントでは、主に二つの活動が並行して行われる
- 仕組みの導入、進捗(しんちょく)管理、改善
- チームが実行している作業に関する指導・支援
イノベーション・マネジメントを始めるための5ステップ
ステップ1:全体像を描く
まず、イノベーションの方向性と目的をつかむ必要があります。イノベーションの結果を見た経営者が落胆してしまうケースも多いのが実情ですが、その原因としてよく見られるのが、期待・規模・投資のそれぞれが一致していない場合です。
第一線で活躍する企業は、戦略的にイノベーションに取り組んでいます。自社にとって大事なものは何か、大きな目標を達成するためにどこに投資すべきか、イノベーションがどのような目標達成に貢献すると期待するかといったことを決めていくために、戦略立案が必要なのです。
戦略立案には、企業全体の上級管理職や主要な従業員も巻き込んだトップダウンの取り組みと、ボトムアップの取り組みの両方が必要になります。イノベーションの現状を把握(診断)しながら、同時に経営者との間では、会社の成長に求められるイノベーションの規模や組織を検討するなど、イノベーションがもたらす未来の姿(成功のビジョン)に関して認識をそろえておきます。
ステップ2:障壁を取り除く
近いうちに進行の妨げになってしまうような特に重大な問題があれば、迅速に対応し、それについて解消するようにしていきます。
イノベーションの取り組みがどのようなものだとしても、優れたアイデアには資金を投入して、市場に出す前提として始動させていきたいものです。
こうした障壁(あるいは成功要因)は、ステップ1でイノベーションの現状を評価すると明らかにできます。
一般的な考えとは違うかもしれませんが、乗り越えるべき最も厄介な壁は、目に見えるプロセスやリソースの制約ではないのです。
自分たちの事業はどのように運営されないといけないか、という組織に根ざした思い込みなのです。イノベーションの成功要因は、組織の構造やプロセス、方針、行動様式にも変化をもたらし、これが効果的な業務の実行を妨げる場合もあるのです。
ステップ3:すぐに始める
イノベーションのための仕組みが全面的に導入されるまで待たずに、プロジェクトはすぐに始めなければなりません。ビジネスには、結果が求められます。
素早く始める利点は、今ある熱意と、勢いを使ってイノベーションを起こせる点です。イノベーションに取り組めば、結果を出しながら必要なスキルを向上させられるのです。何がうまくいって、何がうまくいかないのかを学び、そこから得た知見を生かせば、イノベーションの仕組みを冷静に観察し、微調整できるようにもなるでしょう。
事業戦略は、どの領域でどのように勝負するのかを示し、イノベーションの取り組みを加速させるものでなければなりません。
主戦場/隣接分野/将来の成長分野の事業ポートフォリオがあれば、どういったアイデアを探さないといけないのか、最初のイノベーションプロジェクトではどこに重点を置くべきかなどを明確にできるでしょう。
この段階では、まだ十分なイノベーション・プロセスとは言えませんが、次の3段階に沿って考えれば、経営陣にイノベーションを説明し、プロジェクトの方向付けを進めやすくなるでしょう。
- 発見-アイデアにつながる新しい観点や重要な知見を学び、発展させる
- 機会-知見から新たな成長基盤やアイデアを生み出す
- 実現-具体的なアイデアを実践し、市場に出す
イノベーションプロジェクトを次々と始めましょう。
第1波には、新しい成長領域を特定するためのプロジェクトや、迅速にPDCAを繰り返しながら、時には、ビジネスモデルの変更をしながら、既存のアイデアを市場に出すためのプロジェクトが含まれます。
第2波では、特定の問題解決のアイデアを募るために、従業員にオンラインのイノベーション大会に挑戦してもらったり、あるいは、企業外から参加者を公募してハッカソンを企画したりします。どのような手段を選ぶべきかについては、ステップ1の「全体像を描く」で定めた戦略や目標によって異なります。
ステップ4:あらゆる要素を設計する
戦略とリーダーシップ
ステップ1ではイノベーション戦略を取り上げました。経営陣には、イノベーション・マネジメントと、その他の経営管理手法の違いについて、事前に学んでもらわなければなりません。
イノベーションを推進するには、経営陣にさまざまな行動を起こしてもらわなければなりません。財務やサプライチェーンマネジメントなどと比べると、イノベーションは、コントロールしすぎるのは効果的ではないでしょう。経営陣は、イノベーション推進チームをより良い結果に導くために、マネジメントスタイルを調整し、担当者レベルでの方法論やテクニックなどを知っておく必要があります。
プロセスとツール
起業家は、市場を読み、機会を見て、それに沿って事業を展開します。イノベーションを進めていくと、繰り返し使える、管理しやすいプロセスが形成されていきます。ツールやテクニックは多種多様にあり、チームはそれを使ってプロセスを推進できるようになります。知見を深め、アイデアを生み出し、市場に出す段階に至るプロセスを、チームは進んでいくのです。
コミュニケーション
イノベーションのプロジェクトや取り組みについて企業が新たに発表すると、通常、高い期待が寄せられます。勢いをつけて、継続的な注目を確保するには、コミュニケーション(情報発信)が重要になります。
最終的には、イノベーションを企業文化にしなければなりません。そして、イノベーションを強制するという状態から、イノベーションのプロジェクトを求める声が常にある状態、事業自体がイノベーションを引き寄せるような状態に移行するために役立つもの、それがコミュニケーションなのです。
効果測定と人事考課
効果測定は欠かせません。イノベーション戦略を構築するときには、イノベーションに期待する結果だけではなく、設定した目標に対する進捗(しんちょく)度を測る手段も同様に検討します。
例えば、破壊的なイノベーションを狙っているなら、漸進的なイノベーションの場合とは異なる判断基準を使わなければなりません。評価対象や評価基準の定め方については、こちらの記事をご覧ください。
スキルとノウハウ
イノベーションプロジェクトを成功させるために必要なスキルやノウハウです。イノベーションに関連する能力についての考え方は、他の分野とほぼ変わりません。自社の従業員に対しては研修を行う必要がありますが(OJT)、オープンイノベーションやアクセラレーター、イノベーションハブなどの外部を活用するという選択肢も、現時点で自社に欠けているスキルやノウハウを得るための手段として検討できるでしょう。
価値観と行動様式
おそらく、企業に浸透した行動様式というのは、最も持続的な効果を生んでいるでしょう。というのは、企業文化に一度根ざした行動様式は、なかなか変わらないからです。
どのような行動を浸透させれば、イノベーションを成功させられるでしょうか。別の要素も活用しながらチームを支援すれば、これまでとは違う行動を実践できます。ツールやプロセス、報酬といったハード面が、価値観や行動様式といったソフト面の変化につながるからです。
組織とガバナンス
イノベーションを生むための背骨となる組織構造とは、どのようなものでしょうか。
イノベーションを企画し、支援を提供する部門を別に設けるか、あるいは一人一人の仕事の一環とするか。スタートアップのコミュニティーと手を組むのはどうか。インキュベーションラボのようなものは必要か。またどの機会を追求し、どのように資金調達を行うかをどう決めるか。イノベーションの創出に積極的に取り組み、責任を果たしてくれたスタッフのキャリアパスをどうするか。組織の構造にイノベーションを浸透させるために答えを見つけるべき問いは、たくさんあるのです。
もう一度書きますが、決断を下すときには、最初に描いた全体像に沿うようにします。
ステップ5:小さなステップを速く進める
ステップ4は骨の折れるタスクに思えるかもしれません。
しかし、本当にイノベーションを実践するなら、試行錯誤し、何がうまくいき、何がうまくいかないのかを理解する準備が必要になります。計画というよりは、学びながら適応する柔軟性や、進みながら軌道修正する仕事の進め方であると言えます。ステップ1で最初に描いたイノベーションの全体像や目的を見失わず、段階的に実施していこうとするのは、そのためです。
小さな石でも、大きな波紋を生み出します。
つまり、小さく始めて、早い段階で結果を出し、規模を大きくしていくための勢いをつけるのです。イノベーションの専門家を集めてネットワークを作り、その専門家たちにさまざまな人材の能力開発を助けてもらう。組織の持つ能力や技術をプラットフォームとして提供しましょう。
上記の要素をすべて実行した後でも、組織のイノベーション力の成熟度に合わせて、イノベーションの仕組みも変えていく必要があります。常に自ら挑戦し、かつ挑戦を受けられるように、準備を整えておかなければなりません。そうすればイノベーションの仕組みはさらに改善されていくでしょう。
この記事は、元はStrategos - Insights about Innovationに掲載されたものです。