顧客のことを徹底的に考えると「やりたいこと」を描ける~弥生株式会社 代表取締役社長 岡本 浩一郎氏が実践するデザイン思考

f:id:ORIX:20190918143331j:plain

[Publisher] ORIX Group

不確実で先が見えない時代だからこそ、「自社が」「自分が」どうありたいか、確たるビジョンを持ち、それを具現化していくことが求められている。しかし、明確なビジョンを描くことは多くの人にとって簡単なことではない。必要性は理解しつつも、向かうべき方向性が見いだせていない働き手は多いだろう。

業務ソフトウエアで知られる弥生株式会社の代表取締役社長 岡本 浩一郎氏は、常にビジョンを示し弥生の成長を導いてきた。大学卒業後、国内シンクタンクに勤務。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のMBAコース修了後、外資系戦略コンサルティングファームを経て独立。その後、2008年4月より経営トップとして、2014年にオリックスグループに加わる前から弥生を率いている。「今から振り返ると、そのとき“やりたいこと”に素直に従ってきた結果」だと言う。

岡本氏がたどってきた道と弥生が目指す方向性に「やりたいこと」を描き実現するためのヒントがあるのではないか。同氏に話を聞いた。

エンジニアの経験を生かし、経営の観点から支援できるポジションへ

f:id:ORIX:20190918143303j:plain

――まずは岡本さんの個人的なバックグラウンドについて伺いたいのですが、エンジニアとして社会人の一歩を踏み出されましたね。

岡本:昔からコンピューターが好きだったので、工学部を卒業した後は、情報システムの仕事をしたいと考えていました。今の学生は本当にまじめですが、私たちのころは勉強しない学生がほとんど。私もそのひとりでした(笑)。取りあえずシステムの仕事ができそうな会社に入っておけばいいかな、という流れでシステムエンジニアとして社会人人生を始めました。

――その後MBA留学を経て、コンサルティングファームに移られたのはなぜでしょうか。

岡本:エンジニアであることに誇りを持っていましたが、システムだけで解決できない問題に取り組みたいと考えるようになったのです。例えば、クライアントの新規ビジネスのためにシステムを開発しても、そのビジネスが長続きせず撤退されたという経験もしました。このようなことを通して、経営戦略立案から支援ができる存在になりたいという気持ちが大きくなりました。

その後独立し、事業再生・成長支援などにも関わってきましたが、そのときに、当時の弥生の親会社であったファンド企業から成長支援プロジェクトの声がかかりました。半年弱ほどコンサルタントとして携わり、結果現在に至ります。

――コンサルタントから経営者になろうと考えたきっかけはどのようなものでしたか。

f:id:ORIX:20190918143316j:plain

岡本:コンサルタントとは、本来は西部劇のヒーローのような存在が理想なのだろうな、と考えています。助けを求めている村に向かい、敵をやっつける。平和が戻って村人たちが喜んでいるときには、もう次の村へ向かっているわけです。でも、私はみんなと一緒に喜びたかった(笑)。コンサルタントとして独立してからは、ある程度まではその方向でやれたのですが、プロジェクトにはいつか終わりが来ます。対して、会社の代表になれば、最後まで責任を持ってやりとげることができます。とてもやりがいのある仕事だと感じ、弥生の経営に取り組んでいくことを決意しました。

――自分の力を発揮する方向性とビジョンを定めて、その方向に進んでいるのですね。

岡本:仕事をしながら「やりたいこと」に出会い、それに従うようなキャリアです(笑)。私は運命論者ではありませんが、「ご縁」というものはあると感じています。ビジョンというほどの表現でなくても、漠然と「何かをやりたい」と考えているときに、ご縁は近くにあるはずです。大切なのは、それをきちんと生かすこと。弥生の話をいただいたのも、ちょうどコンサルタントとしてやれることの限界に悩んでいた時期でした。

自分の「やりたいこと」を、みんなの「やりたいこと」に変えていくコツ

f:id:ORIX:20190918143226j:plain

――弥生の第一印象はどうでしたか。

岡本:すごく良い会社だな、と感じました。社員も優秀です。ただ、会社の方向性に迷いがあるな、と感じました。

――迷い、とはどのような部分でしょう。

岡本:当時の弥生は、ソフトウェアの改修や保守が仕事の中心で、エンジニアは何よりも「不具合を出さないこと」を求められていました。もちろんそれは大切ですが、結果的に新しいことにチャレンジできていませんでした。

そこで私は「弥生はテクノロジーの会社だ」と言い続けました。「弥生は会計ソフト保守の会社ではなく、テクノロジーの会社です」と。テクノロジーをコアとして新たな価値を創造していく、エンジニアが目を輝かせながら働ける会社にしなければならないと考えました。

――ビジネス面にも課題はありましたか。

f:id:ORIX:20190918143324j:plain

岡本:弥生は、ずっと小規模企業や個人事業主のお客さまにご利用いただくソフトウェアを作っていました。企業が成長する上で、新しいことにチャレンジすることは必要です。どんどん挑戦するべきですし、それを否定してはいけません。しかし、新しいことにフォーカスし過ぎて、これまでやってきたことがおろそかになってはいけません。

そこで、「ずっとご利用いただいていたお客さまにもっと目を向けて、その市場にきちんと価値を提供しよう」、「そこをしっかりやっていなければ、新しいお客さまにも振り向いてもらえない」と社内に伝えました。

f:id:ORIX:20190918202817j:plain

(左)2008年版のパッケージ(右)2019年版のパッケージ

――店頭にも出られたのですね。

岡本:家電量販店で販売もやりました。当時はまだインターネットで申し込むクラウド会計がなかった時代です。お客さまのリアルな声を聞いてみたかったですし、今でもそうですが、範を示すことは大事だと考えています。リーダーがお客さまと向き合っている姿は、現場に伝わりますから。先方には、「新人が来ます」と伝えていたようですが(笑)。

――リーダーの行動やメッセージで、社内は変わりましたか?

f:id:ORIX:20190918143258j:plain

岡本:技術も製品も人材ももともと良かったので、方向性さえ正しければさらに成長できると確信していました。しかし、方向性や理念は急速に浸透するものではありません。実際に、初めは半信半疑で仕事を“やらされている”と感じていた社員も多かったはずです。最高の薬は成功体験なのですが、残念なことにリーマンショックで成長が止まった時期に重なってしまいました。

とはいえ、社員が頑張ってくれて再び成長軌道に乗ることができました。そこからようやく、ですかね。結果を出すことで、みんなが納得して前向きに取り組んでくれるようになりました。

――エンジニアの方々についてはどうでしょう。

岡本:そちらの方が変化は早かったです。社長就任会見で、クラウドに取り組むという話をして、実際にすぐにプロジェクトを立ち上げました。新たな技術を取り入れる一環で様々なテクノロジーカンファレンスに参加するようになったのですが、あるとき参加していたエンジニアが「われわれの方が進んでいますね」と話してくれました。手ごたえを感じた瞬間でした。

弥生だけではやれない面白いことができるのではないか

f:id:ORIX:20190918143311j:plain

――そんな中、オリックスグループ入りが決まります。どのような心境でしたか。

岡本:オリックスのグループCEOである井上社長に直接お会いして、「弥生をよりよくできる環境を用意するから、安心してグループに入ってほしい」とお話をいただきました。オリックスには新しいことにチャレンジする社風があり、私たちにも既存のお客さまを大切にした上でチャレンジする文化が育っていました。そして、弥生だけではやれない何か面白いことができるのではないか、という考えも浮かんできました。

――そうして生まれたアイデアが「アルトア」につながったのでしょうか。2017年12月にオンライン融資サービスを立ち上げられました。

岡本:お客さまは、日頃より弥生のソフトを利用し、ご自身の事業の現況を会計データとして記録しています。これが膨大な量集まることによって、お客さまの事業性を判断するAIを構築するための会計ビッグデータとなります。そして、オリックスグループには金融の知見があります。これらを組み合わせれば、与信モデルを開発できるのではないかと思い至ったのです。このアイデアを提案書にまとめ、プレゼンをしたところ、「どんどんやってくれ」と応援してくれました。すぐに人員を割り当ててもらい、実現に向けて一気に進みました。オリックスグループに入っていなければ、アルトアはありませんでした。

f:id:ORIX:20190918143235p:plain

オリックス株式会社と弥生株式会社が共同で設立したアルトア株式会社

――弥生がオリックスグループと共に実現したいこと、ありたい姿は何ですか?

岡本:デザイン思考やデザイン経営という言葉が流行していますが、私はそれを「顧客中心に考える」、「顧客のことを徹底的に考える」ことだととらえています。お客さまはどんな方で、どんなビジネスをしていて、何に困っているのか。本質的なところを理解する必要があります。

f:id:ORIX:20190918143218j:plain

社内に掲げられている、弥生のお客さまが抱く仕事への思いを表現した「YAYOI USER’S CHALLENGE STORY」。弥生が支えるお客さまとはどのような人たちなのかを感じることができる。

アルトアは、融資という面でお客さまをサポートします。お金の調達にかかる時間と労力は、アルトアによって大幅に軽減できるはずです。人工知能(AI)による審査で融資可否の回答が届き、即日融資を実行できますから。将来は自動的に借入/返済をできるようにするところまでやりたいですね。

そのほかにも、お客さまが自動化したいバックオフィス業務は大量にあります。多くは、テクノロジーを使って自動化できるようになるでしょう。そうして自動化により生まれた時間を、お客さまならではの価値創造のために充ててほしい。われわれ弥生の「ありたい姿」はお客さまの事業の立ち上げと発展の過程で生まれるあらゆるニーズにお応えする「事業コンシェルジュ」です。

――テクノロジーに金融の知見が加わり新たなイノベーションが期待できそうですね。本日はありがとうございました。

このページを閲覧している方への関連リンク

ページの先頭へ

ページの先頭へ