スイスの事例から学ぶ、ゼロエミッション社会に向けた五つの具体策

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[Publisher] CleanTechnica

この記事はCleanTechnicaのスティーブ・ヘンリーが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願いいたします。

スイス連邦材料試験研究所(EMPA)の研究者であるマーティン・リュディシュリ氏、シナン・テスク氏とウルス・エルバー氏は、スイス国内の電力を非化石燃料のみで賄うのに必要な条件について研究を進めてきました。彼らが導き出した結論の一つが「夏には再生可能エネルギー源から十分に発電できるが、冬になると南側の近隣国から電力を調達する必要がある」ということでした。

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写真提供:US Green Building Council

学術誌「Energies(オープンアクセス科学ジャーナル誌)」に掲載された報告書では、Swissgrid社(スイスの送電網事業者)が提供したデータを利用し、四半期ごとの電力需要量を測定しています。そして、「スイスの暖房設備と交通機関の大部分が電化された場合、電力需要はどのように変化するのか?」という疑問を投げかけました。彼らが導き出した答えは、電力需要は年間約13.7テラワット時(TWh)増加するということでした。

この数字は、交通・輸送部門では電気自動車への移行が進み、既存の住宅や商業施設のエネルギー効率が改善される前提で、算出されたものです。「Science Daily」に掲載された報告書によると、この研究では、まずリフォームで、すべての建物の暖房需要を約42%削減し、住宅やアパート内の暖房需要の残り3/4をヒートポンプ(温度の低い所から高い所に移動させる機械。空調機などで使われている)を使えば目標を達成できると仮定しています。さらに、自家用車の約2/3が電気自動車になると想定をしています。

この研究では、五つの分野に注目しています。まず一つ目は、従来の熱源をヒートポンプに交換すること。二つ目に、現状の太陽光発電の発電量を8倍にして原子力発電を置き換えなければならないことが挙げられています。スイスは原子力発電の廃止を提案しているためです。原子力発電は年間約8000時間稼働していますが、太陽光発電の場合、年間約1000時間しか稼働していません。そうなるとさまざまな場所にソーラーパネルを設置しなければならなくなります。

三つ目は、蓄電池、揚水発電、地熱発電、電気を化学エネルギーに変換して溜める技術など、あらゆるテクノロジーを用いて、蓄電容量を劇的に増加させること。四つ目は、冬の間のヒートポンプ使用をできるだけ減らすため、蓄熱技術を推奨しています。

この項目では、冬の期間限定の蓄熱設備を設けることが挙げられていますが、五つ目には、電力需要が最も高くなる冬に、日照量の多い南国から、スイスに電力を調達するための、電力ロスの小さい高電圧直流(HVDC)送電線を確保することが挙げられます。電気自動車推進派にとって、この分析において明るい材料になっているのは、電気自動車は送電のバランスを崩さないということでしょう。適切な充電インフラが整備されている前提ですが、電力がまだ十分ある時に充電できるからです。

「エネルギーシステムの持続可能な転換を成功させるには、短期的また長期的に(季節に合わせて)エネルギーを蓄えておく技術が必要になります。エネルギーセクターにおいては、競合するのではなく、あらゆる技術的な選択肢を公開しておくべきなのです」と、マーティン・リュディシュリ氏は語ります。シナン・テスク氏はさらにこう付け加えます。「太陽エネルギーは年中手に入るわけではありません。私たちは、その賢い使い方を自然から学ぶべきなのです。夏の間に可能な限り熱を蓄えておき、冬は必要量を抑えるのです。あるいは、南半球で太陽のエネルギーを蓄え、冬になるとスイスに供給してくれるパートナーを探す方法も考えられるでしょう」。

要するに再生可能エネルギーが十分に手に入る時期は限られており、低炭素、あるいは脱炭素社会を築くためのカギは、蓄熱技術とともに、豊富に電力がある地域から供給量が不足している地域へ電力を運ぶ丈夫な送電網を構築することにあると言えます。 

この調査研究で得られた最も重要なポイントは、家庭や企業のエネルギー効率を向上させる必要性であると言えるしょう。1キロワット時(kWh)の節電は、同量の発電が必要がなくなるということで、US Green Building Councilによると、建物の暖房や冷房から排出される温室ガスは、運輸セクター全体よりも多いということがわかっています。

結論は、ソーラーパネルや風力タービンを増やすことも大切ですが、経済における脱炭素化がより必要になってくるということです。これを実現するには、多くの計画と、市民や企業、政府による多大な努力が求められます。そして、できるだけ早く始める必要があります。無駄にする時間はもうないのですから。

著者について

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スティーブ・ハンレー ロードアイランドの自宅のほか、シンギュラリティ(技術的特異点)がけん引する場所から、テクノロジーとサステナビリティ(持続可能性)のインターフェースに関する記事を執筆している。「人生は、呼吸の数ではなく、息をのむ瞬間の数で評価される」と言うのがモットー。

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