オリックスが成長分野の一つと捉える「農事業」最前線

2018/3/19
2004年以降、オリックスグループは全国5カ所に野菜の生産拠点を展開。青果物の流通事業への参入を念頭に、農事業の経験とノウハウを蓄積してきた。2016年にはオリックス・フードサプライを設立し、提携生産者からの青果物の仕入れや販売にも取り組んでいる。
高齢者や働く女性、単身世帯などの増加に伴い消費者のニーズも多様化するなかで、農産物の安定供給につながるさまざまな取り組みを進めるオリックス。なぜ、農業に参入したのか。日本の農業はこれからどのように変わるのか。オリックス(株)農事業部 部長の倉科正幸氏に話を聞いた。
変化する業界にはビジネスチャンスがある
オリックスは創業以来、経済環境やニーズの変化に対応し、新たな領域に事業を拡大してきた。近年では、ヘルスケアやIoTなど、人々の関心を集める分野にも積極的にチャレンジを続けている。
その中でも長期的な成長分野のひとつとして見込んでいるのが農事業だ。
オリックスと農業。異質な組み合わせにも思えるが、接点が皆無だったわけではない。たとえば、2004年に誕生したアジア最大規模のトマト菜園である「加太菜園」は、オリックスとカゴメの合弁会社だ。
とはいえ、加太菜園への出資は、オリックスはあくまでファイナンサーとしての立ち位置で、自ら農事業を手掛けるものではなかったという。
そのような状況が大きく動き出したのは、2013年11月。国内営業統括本部で、金融機関や商社を対象とした営業を行っていた倉科正幸氏は、部内にアグリビジネスチームを立ち上げた。
「もともとは農業に関する経験も知見もありませんでした。しかし当時から、TPPの交渉、農地法改正による規制緩和、農業従事者の減少など、農業を取り巻く環境が大きく変わることが予想されていました。
既存の枠組みが変化するところには新たなビジネスチャンスがあると考え、農事業への本格的な参入を決めたのです」(倉科氏)
ファイナンスを提供するのみならず、自社で農事業に取り組むことはできないのか。その方法を模索するためのチームは当初2名体制からスタート。「社内公募制度」を利用して少しずつ規模を拡大し、農事業に特化した部門として独立した。
「オリックスには、新規事業の立ち上げや既存事業の拡大に伴い、その部門が社内からメンバーを募る『社内公募制度』があります。
新たな領域への参入にあたり、せっかくなら農事業に携わりたいという希望を持つ社員と進めていきたいと考え、この制度を利用しました。予想以上に多くの社員から応募があり、一から事業を立ち上げたいという社員の多さを再認識しました」(倉科氏)
農事業は「試行錯誤の繰り返し」
チームが発足した当初は、農業に携わってきた人材がいない以上、何ごとも手探りだった。
一口に農業といっても、「生産」「流通」「販売」などさまざまな工程がある。「生産」にしても、何を作るのか、どのような方法を採用するのかによって、大きな違いがある。さらに、自社では農産物をつくらずに、生産以外の工程に特化するという選択肢もある。
倉科氏は、まずは業界全体を俯瞰し、オリックスが農事業に参入する意義やビジネスチャンスをじっくりと見定めることにした。
「農家の方々、農機具メーカー、種苗会社、農学部の大学教授、農地の有効活用を考えている自治体、農水省など、日本全国の農業に携わる人に話を聞きました」(倉科氏)
1年以上かけてさまざまな人の話を聞き、農事業参入に向けた戦略をじっくりと検討。「生産」から「流通」、「加工」、「販売」までバリューチェーン全体を捉え、「生産」よりも川下の「流通」をメインの事業領域に設定した。
農業というと「生産」が注目されがちだが、「生産」のみに特化していては、企業が求めるスケールで展開していくことが難しいからだ。ただし、すぐに流通事業に着手したわけではなかった。
「農業関係者の方々から話を聞くなかで、『そんなに甘い世界じゃないよ』と言われることも多かったのです。まず、農業に対する肌感覚がないとうまくいかないのでは、という懸念がありました。
もうひとつ根本的な問題もありました。素人の私たちがいきなり『青果流通をやります』といっても、商品を仕入れるルートがなく、売るものがありません」(倉科氏)
多少遠回りにはなるが、まずは自分たちで生産拠点を持ち、そこで生産した青果物を売ることにしたのだ。
農業の根本である「生産」から取りかかる
2014年から16年にかけて、野菜の生産拠点として、兵庫県養父市の「オリックス農業」「やぶファーム」、長野県諏訪郡富士見町の「オリックス八ヶ岳農園」、静岡県磐田市の「スマートアグリカルチャー磐田」を、事業パートナーと連携しながら開設した。
オリックス農業は、廃校になった小学校の体育館を植物工場にしたもので、フリルレタスやサンチュなどの葉物野菜を生産する。もともと、オリックス不動産が自治体から廃校の有効利用について相談を受けた際、植物工場としての利用を提案したことがきっかけだった。
完全人工光型植物工場では、外気を遮断することで無農薬栽培が可能になる。異物混入のリスクも少ない。さらに、季節や天候の影響を受けにくいため、農産物の安定供給にもつながる
一方、オリックス八ヶ岳農園については、生産拠点とする場所の検討から自分たちで行った。
「日照時間や水質、物流の利便性など、あらゆる条件を精査し、青果物の生産に適した土地を選定していきました。全国各地にあるオリックスグループの営業拠点からヒアリングをしたり、自治体とコンタクトをとったりして情報を収集し、候補地には自ら足を運びました。
その結果、事業パートナーである本多園芸とご縁があり、年間を通して日照時間が長く、比較的雪が少ない上に夏も涼しいことから、長野県の八ヶ岳高原を生産拠点とすることに決めました」(倉科氏)
オリックス八ヶ岳農園では、サラダほうれん草やルッコラなどの葉物野菜を栽培する
ほかにも越えなければならない壁はたくさんあった。
たとえば、改正農地法により、農地を所有できる法人への企業の出資比率は50%未満と定められているため、オリックスが97%出資しているオリックス八ヶ岳農園は自ら農地を保有することができない。地域の農家の方々から土地を借用する必要があった。
「土地をお貸しくださる地域の農家の方がいらっしゃるからこそ、八ヶ岳高原で野菜を生産することができる。地域の方々と丁寧にコミュニケーションをとり、信頼関係を構築することで、そのうち『こっちにも土地があるよ』とご紹介いただけるようになりました」(倉科氏)
また、農地整備のために、自分たちで泥だらけになりながら石を拾ったこともあったという。
「大規模な施設の建設には苦労もありましたが、今では自然光を利用した水耕栽培施設で、年間19回ほど野菜を収穫しています。水耕栽培では、ハウス内の環境制御と養液管理を行うことで、1年を通じて安定した収穫ができるのです。
今でも試行錯誤を繰り返していますが、まずは生産から着手するという方針は間違っていなかったと思います。農家の方々の思いや苦労を実感したことで、これから農業に取り組む企業としての土台ができたと感じています」(倉科氏)
新鮮な野菜を安定して供給するために
オリックスは現在、生産者とのネットワークを拡大し、流通事業に本格的に着手している。
「飲食事業者や食品スーパーにとって、野菜を安定的に調達することはとても大切です。ですが、天候不良や農業従事者の減少により、市場に集まる野菜の量は減少傾向にあります。さらに野菜の量が減ると、効率的な輸送も難しくなります。
こうした状況から、従来の市場からの調達だけでなく、より多岐にわたる調達ルートが求められているのです」(倉科氏)
このような課題に対して、生産者と小売業者をつなぎ、農産物を全国に安定供給するための仕組みづくりを進めているのだ。
オリックス八ヶ岳農園での作業風景
昨年7月には、全国規模で青果専用のコールドチェーンを展開するファーマインドと資本業務提携を行った。
「ファーマインドがもっている多機能な物流ネットワークを活用することで『かさばるけれど安価』な野菜を、コストを抑えて効率よく、適切な温度管理のもとで運搬できるようになりました。
これにより、生産者が野菜を販売できるエリアを広域化するとともに、食品スーパーや飲食事業者が新鮮な野菜を全国から安定調達できる仕組みを整えていきたいです」(倉科氏)
また、生産者の減少という課題に対しても、企業としてできることがないか模索している。
「農業がきちんと収益をあげられる事業になれば、新規の就農者も増えていくでしょう。
ITなどの新しい技術を用いて生産効率をあげたり、効率的に野菜を運ぶための物流ネットワークを構築したりすることで、生産者側がきちんと適正な利益を上げられるような仕組みづくりに貢献したいと考えています。
また、農業は『野菜』という生き物を相手にする仕事なので、朝早くから夜遅くまで休みなく働かれる生産者の方も多いと聞きます。企業が労働環境を整えれば、若い方も農業に携わろういう気持ちになるかもしれません」(倉科氏)
現在、農事業部は、生産拠点に常勤する社員も含めて17名。そのほとんどは農業にゆかりのないメンバーだ。まったく経験がない状態からのスタートだったが、こうして振り返っていくと、あらゆるところで既存事業から得た知見やノウハウが生きている。
「たとえば、事業パートナーとJVを組むときには事業投資で得た知見が、生産拠点をつくるときには不動産開発に関するノウハウが役立ちます。さらに、オリックスグループの営業拠点が持つ食品スーパーや外食チェーンとのネットワークも大きな強みです。
そして何より、未経験の分野でも知見を貯めてチャレンジしていこうという前向きな姿勢は、これまで『隣へ隣へ』と事業を拡大してきた中で培った大きな財産だと思っています」(倉科氏)
隣の事業、さらにその隣の事業へと領域を拡大するのは、オリックスの特徴的な手法だ
将来の流通事業への参入を見据えて、じっくりと野菜の生産に向き合ってきたオリックス。これから数年でどこまで事業を拡大できるか。そして日本の農業の発展に寄与することができるのか。
「スピードアップ、スケールアップは常に求められており、社内のプレッシャーも強くなっています(笑)。スーパーの店頭でオリックスの野菜が並んでいるのを見ると、より一層気合いが入りますね」(倉科氏)
(編集:大高志帆 構成:唐仁原俊博 撮影:加藤ゆか)